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東京高等裁判所 平成5年(行ソ)3号 判決 1993年12月21日

東京都港区南青山5丁目1番10-1105号

再審原告

中松義郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

再審被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

長澤正夫

奥村寿一

吉野日出夫

主文

本件再審の請求を棄却する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  再審原告

(1)  東京高等裁判所が平成4年(行ケ)第13号審決取消請求事件について平成5年6月22日にした判決を取り消す。

(2)  特許庁が昭和57年審判第19578号事件について平成3年11月14日にした審決を取り消す。

(3)  訴訟費用は全て再審被告の負担とする。

2  再審被告

主文と同旨の判決

第2  当事者の主張

1  再審原告

(1)  確定判決の存在

再審原告は、平成4年1月24日、東京高等裁判所に対し、特許庁が昭和57年審判第19578号事件について平成3年11月14日にした審決の取消しを求める訴えを提起し、同裁判所同年(行ケ)第13号審決取消請求事件として係属し、平成5年6月22日、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決(以下「原判決」という。)があり、原判決は、同年7月7日に確定した。

(2)  再審事由

(一) 再審原告は、本件訴訟において、審決の取消事由として、審決が本願発明と引用例(昭和50年実用新案登録願第20933号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム)記載の考案とは「フロッピィディスクのインタライナを少なくとも磁気ヘッド挿入孔及び回転軸挿入孔の孔縁より内側に設ける」点で一致すると認定したことの誤りを主張したのに対し、原判決は、乙第1号証に、内側層(セパレートシートに相当する。)は繊維でもよいことが記載されている等のことから、引用例記載の考案においてもセパレートシートとして繊維が用いられることが予定されているとして、「引用例記載の考案においてセパレートシートのヘッド挿入孔等を大径に形成した理由としては、(中略)セパレートシートの縁又はその繊維のほつれがヘッド挿入窓等にはみ出さないようにするためであるとみるのが相当であると認められる。」と判断している。

しかし、引用例には、セパレートシートの材質については何ら記載がない。

そして、この度提出した甲9号証及び10号証には、その不織布をセパレートシートとして使用すれば、繊維の脱落が抑制され、毛羽発生が少ないことや繊維のほつれが少ないことが開示されており、また、この度提出した甲11号証には、繊維以外の合成皮革等を磁気ディスクのクリーニングに使用することが開示されており、当業者がこれらの不織布、合成皮革等をセパレートシートとして使用することを想到することは、きわめて容易である。

したがって、引用例記載の考案のセパレートシートは当然にほつれ易い繊維であると認定することはできないものであり、これを前提として、本願発明と引用例記載の考案とは前記構成において一致するとした原判決の認定、判断は誤りである。

原判決には、民事訴訟法420条1項9号の規定する再審事由があるというべきである。

(二) また、原判決は、本願発明と引用例記載の考案との相違点2(本願発明においては、磁気ヘッド挿入孔とその近くのフロッピィデイスク外縁との間にはインタライナが存在しないという構成を採用しているのに対し、引用例記載の考案においてはその点が明記されていない点)について、

「原告は、磁気ヘッド挿入孔とその近くのフロッピイディスク外縁との間にインタライナが存在しないとした構成を採用した理由として、磁気ヘッド挿入孔とディスク外縁との部分は、ディスクの回転速度が速く、インタライナの繊維がほつれ易いことを挙げる。

しかし、仮にそうであるとしても、それに対処するためには、インタライナを磁気ヘッド挿入孔の周囲から繊維のほつれの長さのみ隔離して配置すれば必要にして充分であり、その範囲を超えて、磁気ヘッド挿入孔とその近くのフロッピィディスク外縁との間にインタライナを配置しないこととしても、インタライナの繊維のほつれが磁気ヘッド挿入孔にはみ出さないようにするという本願発明の技術的課題の観点からみると、格別意味のあることではない。」、「本願明細書には、前記構成の作用効果として、インタライナの繊維のほつれが磁気ヘッド挿入孔にはみ出さないことの他、インタライナ打抜のときの打抜型からの離脱が容易になるという作用効果がある旨記載されているが、それによって打抜型からの離脱が容易になるということは直ちに理解し難いのみならず、その点は、製造工程上の便宜等を考慮して当業者において適宜決定することができる設計事項にすぎないものである。」と判断し、審決が相違点2に対してした判断に誤りはない旨判示している。

しかし、本願発明は相違点2に係る構成を採用したことにより、以下のような欠点を防止できるという格別の作用効果を奏するものである。

<1> 本願発明においては、ジャケット1内で高速回転するディスク11の外縁は磁気ヘッド挿入孔6の外側の狭いジャケット部分の内面に接している。この細いジャケット部分のインタライナは特に細い幅であるので、高速回転デイスクの最高速縁部が接して、繊維が容易に大きくほつれ易く、エラーの原因となる。

<2> 高速回転ディスクの表面には遠心力により、ディスク中心から外縁方向への空気流が生じ、磁気ヘッド挿入孔とその近くのフロッピィディスク外縁との間にインタライナがあると、その空気流が攪乱されて磁気ヘッド挿入孔から円滑に排出されない。そのため薄くて軽いディスクは回転の平坦性を保ち得ず、磁気ヘッドとのコンタクトが乱れてドロップアウトなどのエラーの原因となる。

<3> 細いインタライナ部分は、その形状から、製造の際に切れてトラブルの原因となり易い。

以上のとおり、本願発明は相違点2に係る構成により顕著な作用効果を奏するものであり、本願発明は進歩性を有するものとして特許されるべきものであるにもかかわらず、原判決は前記の理由によりこれを否定したものである。

したがって、この点についても、原判決には民事訴訟法420条1項9号に規定する再審事由があるというべきである。

2  再審被告

第2、1、(1)の事実及び原判決に再審原告が主張する認定、判断がされていることは認めるが、再審事由の存在は争う。

理由

第1  事実第2、1、(1)の事実及び原判決に再審原告が同(2)において主張する認定、判断がされていることは当事者間に争いがない。

そこで、再審事由の存否について検討する。

再審原告が再審事由(一)として主張するところは、単に、原判決が引用例記載の考案の技術内容の認定を誤り、もって審決のした本願発明と引用例記載の考案の一致点の認定に誤りはないと誤って判断したというものであり、原判決の認定、判断の誤りをいうものにすぎないものである。

原判決は、再審原告が審決の取消事由として主張した一致点認定の誤りの主張に対しては、再審原告が主張するような判断を加えているのであるから、その認定、判断の当否にかかわらず、それが民事訴訟法420条1項9号の規定する「判決に影響を及ぼすべき重要なる事項に付き判断を遺脱したるとき」に該当しないことは明らかである。

また、再審原告が再審事由(二)として主張するところも、単に原判決が相違点2に対してした判断の誤りをいうものにすぎず、原判決は、再審原告が審決の取消事由として主張した審決の相違点2に対する判断の誤りの主張(なお、本件記録によれば、再審原告は、本願発明が<2>の作用効果を奏することは主張していない。)に対しては、再審原告が主張するような判断を加えているものであるから、その判断の当否にかかわらず、前記再審事由に該当しないことは明らかである。

第2  よって、本件再審請求は理由がないからこれを棄却することとし、再審訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

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